視機能評価に基づく視環境の整備により本人の活動が広がる

 16, 2016 05:00
 重複障がい者の視機能について、実態に即した方法によって検査した。
 それが以下の事例である。
 通常の視機能検査はできない。
 紙屑を拾うことができていたことに着目して行った評価である。
 本児の生活実態に即した方策である。
 とてもユニークですばらしいやり方だ。
 本児のような重複障がい者の可能性を広げる手立てといっていい。
 
 本論文の紹介は第96回目である。 



【引用はじめ】

http://web.econ.keio.ac.jp/staff/nakanoy/article/self_determination/report02.html
第1部 障害のある人の自己決定・自己管理を引き出すためのマニュアル
     主任研究者 中邑賢龍(香川大学)
     分担研究者 中野泰志(慶應義塾大学)
              坂井聡(金沢大学大学院)
              岩根章夫(姫路市総合福祉通園センター)
              中澤惠江(国立特殊教育総合研究所)

自己決定・自己管理を引き出すためのマニュアル

4 指示が通らない(コミュニケーション出来ない)

4-3 注意が向いていない

【事例】

T-14 視機能評価に基づく視環境の整備により本人の活動が広がる

 対象は,光しかわからないと言われていたhさん。
 hさんは,視覚障害と知的障害があり,眼科では光覚と診断されていた。
 光覚と診断されているが,周囲の行動観察では時々もっと視覚を活用しているような様子が見られるとのことであった。
 そこで,視環境を変化させながら,どの程度視覚活用が可能かを評価することにした。
 しかし,hさんは,通常の視機能検査の課題には興味を示さなかったため,系統的な行動観察から視機能を評価した。

 評価方法として,紙屑をゴミ箱に捨てることが可能であったことに着目し,紙屑を拾い上げる行動から視力を評価した。
 おやつ(チョコレート)を一つ食べ終ったら,紙屑を片付けることにした。
 紙屑の大きさを変化させ,どれだけ小さな紙屑まで眼で確認できるか(そのときの視距離も同時に測定)を調べた。
 角膜に白斑があることから,白黒反転効果が予想されたため,黒いテーブルクロスに白い紙屑の条件と白いテーブルクロスに黒い紙屑の条件の2条件を設定した。
 なお,手探りで紙屑を発見したときには,分析から除外した。

 紙屑拾い課題はすぐに理解してくれた。
 その結果,黒いテーブルクロスに白い紙屑の条件では,0.5cmの紙屑を15cmの距離から視認可能であった。
 これは,視力に換算すると,0.009に相当する。
 また,白いテーブルクロスに黒い紙屑の条件では,テーブルクロスに眼を近づけるのを嫌がった(まぶしいことが予想される)。
 視認できた最小の紙屑は2cmで,そのときの視距離は20~25cmであった。
 これは視力に換算すると,0.003~0.004に相当する。
 この視力は通常のランドルト環を用いた視力とは意味が異なるが,hさんにとってどの程度の大きさの物が情報となり得るかを予測することが出来た。
 また,白黒反転条件で視力評価を行った結果,hさんの場合,黒い背景に白い物を提示した方がよく見える(白い背景に黒い物を提示するときの半分以下の大きさで視認可能)ことが分かった。
 これらの結果から,10cm程度まで近づけば,条件が悪く(背景が明るい条件)ても1cm程度の大きさの物は発見できることが予測出来た。
 また,作業をする際には,黒いテーブルクロスに白っぽい物を提示すれば効果的であることが分かった。
 例えば,食器を白やクリーム色にし,黒や濃いブルーのテーブルクロスの上におけば,視認しやすいことが予想出来た。

 以上のことから環境整備への応用を考える。
 視機能評価の結果,光覚という診断を聞いて私達がイメージするよりももっと高い視覚活用能力が,彼女にはあることが分かった。
 これは,視覚を活用したかかわりを自信を持って展開してもよいことを示唆してくれた。
 また,10cm離れていて1cm程度のものが発見できるというように,彼女がどれだけ見えるかを具体的に把握することが出来た。
 この結果は,hさんにより適した教材を作ったり,提示したりする際の具体的な目安となり,hさんも日常生活で視覚を活用するようになった。
 さらに,黒い背景に白いものを提示(白黒反転)した方が見やすいことから,屋外などの明るい場所ではまぶしくて見えにくいはずであることがわかった。
 サングラスを紹介したところ,屋外で単独で行動することが出来るようになり活動が広がった。
 このように,視機能評価に基づいて視環境を整備すると,行動の意味(なぜ見ようとしなかったのか等)が分かったり,活動が広がったりすることがある。

(つづく)

【引用終わり】



 以上の実践は、hさんのさらなる可能性を広げる結果となった。
 はじめは視機能評価をすることが目的だった。
 しかし、それ以上にどんな活動が適切かを明確にすることができた。
 生活に根差した方法による視機能評価が、hさんの活動のあり方を発展させるまでになった。
  
  (ケー)
関連記事

COMMENT 0

WHAT'S NEW?